100億万ダメージを超えるパンチ力

巨大数

 当ブログは、自閉スペクトラム症の当事者である僕が、いつも見ている世界をできるだけ詳細に言葉にすることで、皆さんに他者の価値観を鑑賞していただく試みです。

クリハロ

どうも クリハロ です。

今回もご覧いただき、ありがとうございます。

各種SNS(Twitter YouTube)もよろしくお願いします。


 子どもの頃はきっと誰もがグーゴロジスト巨大数愛好家)だったと思う。何でも買える100万円を夢見たり、地球が何回回ったかを訊ねては、100億万ダメージを与えるパンチを繰り出したりしていたんじゃないかな?

大きい数ってなんとなくカッコいいもんね!

 でも「無限」に関する数学の営みが、現代数学に大きな功績を残し、不可欠な概念として誰もが認めるものとなった一方で、巨大数には有効な活用先もあまりないから、研究対象として扱うものではないと考える人が多く、それを主題とした著書も少ないんだ。よって、学校教育で扱うこともないし、多くの人はその内実をほとんど理解していない。
 それでも、童心が感じたあの煌めきは、何に役立つのかを考える現実的な精神に基づかなくても、数学の世界に自己を投入して好奇心を燃やすのに十分なエネルギーを内包しているんだ。これまで巨大数愛好家たちは、効率的に巨大な有限の数を体系的に定義する方法を考案し続けてきた。今回は、巨大数の歴史と定義を紹介するよ。芸術的なデカい数を鑑賞するためには、定義を正確に操作するという数学で重要な考え方を身につける必要がある。
 この記事の目標は、数学を多角的に楽しむ意欲と数学的な思考力や技能を育むことだよ。さぁ、いつか放った100億万ダメージのパンチの威力をより高める旅へと向かおう。

巨大数が辿ってきた道のり

古代の巨大数

 古代バビロニアにおいて、すでに 3^{92}の値は計算されていたらしい。これは当時の数理的な天文学の必要性を大幅に上回るもので、旧約聖書に登場する最大の数は人口についての記述で603550、アルキメデスが活躍した紀元前3世紀ごろのギリシャでも、せいぜい1万までしか数単位を持っていなかったことを踏まえると、極めて大きく、後期バビロニア純粋数学の一つの到達点と言えるよ。

3^{92}\fallingdotseq 7.855 \times 10^{43}
最初の例から、44桁って結構デカいね!

 ただ、そのアルキメデスには傑出した才能があった。『砂の計算者』という論文で、宇宙空間を埋め尽くすに必要な砂の数を、現代の表記でいうところの 8 \times10^{63}だと試算していて、当時、ユークリッドの『原論』で多少の言及があったに過ぎない指数法則を巨大な数を表すために優秀なツールであると捉えることができていたんだ。
 他にも、エラトステネスに宛てた手紙で、四元の不定方程式を解くことになる牛の数に関する問題を提示していて、これは19世紀末になってようやく、206545桁になると求められた。つまり、アルキメデスは、当時の数学の世界においては常軌を逸しているほど巨大な数を、空想に過ぎないものとしてでなく、実際に必要になる場面まで想定して扱っていたんだよ。文化的な意義の大きい重要な功績だね。
 この時点で既に十分大きな数だけど、実用性を離れると巨大数はみるみる大きくなるよ。

日常的な巨大数

 長大な時間や空間の比喩的な表現として、仏典の世界でも、巨大数を用いることがある。小学四年生の教科書にも記載されている無量大数までの単位も、多くがそういった文脈で生まれたもので、その後に体系的に整理されてきたんだよ。
 そんな仏典で生まれた最大の数は、華厳教にある「不可説不可説転」だとされている。

この動画によって少し知名度が上がった気もする

 その値は 10^{7×2^{122}}つまり、10の約30澗乗という、単純な指数表現では表記が厳しくなってくるレベルの大きさ。ただ、このように何倍か毎の位に名前を付けて表現する、万、億、兆…や、Million、Billion、Trillion…などだと、大きくするためには、新たな名前が次々に必要になってしまうんだよね。だから、指数表記可能な程度の数しか表すことができない。

え! 指数表記ができないほど大きい数なんてあるの!?

 2024年10月に見つかった現在最大の素数であっても、高々 2^{136279841}-1 だし、そこまで大きな数を扱うことなんて絶対にないから、実生活では指数表記(桁数で表すのも10を底とした指数的な考え方)で十分に事足りるだろうね。でも、ロマンを追い求めたい。ここからは、指数表記さえ現実的には不可能だと言えるような巨大数を表す方法を見つめていくよ。

クヌースの矢印表記

 有名なものとして、1976年の論文で用いられた「クヌースの矢印表記」がある。
 発想は非常にシンプル。掛け算やべき乗からの一般化だ。

  • a 自身を n 回、足し算する演算を掛け算として a \times n と表す。
  • a 自身に n 回、掛け算する演算をべき乗として a^n と表す。

 それなら、次はべき乗を a 自身に n 回行うような演算を定義してみようって自然と考えたくなるよね。そして、またそれを何回も行うようなものを定義して、またそれを何回も…と、次々に定義することもできる。これなら、明らかにべき乗よりも簡単に果てしなく大きな数を表現できそうだ。ドナルド・クヌースはここに目をつけた。

クヌースの矢印表記の定義

まず x↑y=x^y として、
xy の間に n 本の があることを x↑^ny と表す。
そして、x↑^n0=1 として、この式を次のように定義する。
x↑^ny=x↑^{n-1}(x↑^n(y-1))

 小さい n から試せば、これが前述のような法則を表そうと定められたことがわかるんじゃないかな。

3↑^23=3^{3^3}=3^{27}=7625597484987
って、小さな数字を入れただけで、とんでもなく大きいね。
たった 1 増やすだけで、3↑^24=3^{7625597484987} になるし…
矢印の方を増やせば、3↑^33=3↑^23↑^23=3↑^27625597484987
うん…。もう意味わかんないくらい大きいね。

 そして、マルチン・ガードナーは翌年にこの表現を用いて、ラムゼー理論に関する問題で必要になった「グラハム数」という巨大数を表した。これは数学の証明に使われた数として世界一の大きさであり、ギネスブックにも認定されたよ。
 グラハム数は、クヌースの矢印表記を、さらに再帰的に使って作った数だ。
 まず関数 G G(n)=3↑^n3 と定義する。
 そして、G^2(n)=G(G(n)) , G^k(n)=G(G^{k-1}(n)) のように、関数 G を何度も繰り返し作用させるとしよう。
 このときの G^{64}(4) をグラハム数と呼ぶことにしたんだ。
 つまり、G(4)=3↑^43 さえ、指数表現では到底表すことが困難な数なのに、それ自体を64回もすぐ巨大になる関数 G の中に入れてしまったという、とんでもない数なんだよ。

目が回ってきた!大きさを想像さえできないよ。

コンウェイのチェーン表記

 もうこれ以上あるのかよって感じだけど、巨大数の表現はまだまだ人々の好奇心を駆り立てる。ついには、証明への利用価値なんかも棄てて、巨大数としてのポテンシャルだけを高めた定義を生んでいくんだ。

 1995年、ジョン・ホートン・コンウェイによって、クヌースの矢印表記をさらに拡張させた「コンウェイのチェーン表記」が作られた。

コンウェイのチェーン表記の定義

まず a→b→c=a↑^cb とする。
クヌースの矢印表記から、a→b→c=a→\{a→(b-1)→c\}→(c-1)
ここで、長さ n で繋げたチェーンを、X_n と置く。
そして、X_n→1→X_m=X_n(1の先は無視) として、次のように定義する。
X_n→b→c=X_n→{X_n→(b-1)→c}→(c-1)

 クヌースの矢印表記では、例えば、7↑^95=7↑^87↑^87↑^87↑^87 のように、いくら横に繋げたところで、 の肩の数字を 1 大きくするだけで等価にしてしまえるから、実質的に a↑^cbc を大きくすることにしか価値がなかった。
 しかし、コンウェイのチェーン表記では、この c 自体に対して演算を施すように、右へ右へとチェーンを繋げられる。これによって爆発的に大きくできるんだ。

 コンウェイのチェーン表記を使えば、グラハム数を超える数さえも簡単に表現できるよ。なんと、3→3→3→3>G^{64}(4) なんだ。あれほど大きかったグラハム数が、たった4つの3に負けてしまう。確認してみよう。

まず、G(n)=3→3→n , G^n(1)=3→3→n→2 である。
よって、3→3→3→3=3→3→(3→3→27→2)→2=G^{G^{27}(1)}(1)
ここで、G^{65}(1)=G^{64}(27)>G^{64}(4) であり、G^{27}(1)>65 であるから、
3→3→3→3>G^{64}(4)

G^{27}(1)>65 って、あまりにも違いすぎる不等式!
つまり、たった4つの3に、グラハム数は大敗しているんだね。

 コンウェイのチェーン表記のさらなる拡張には、簡単なものとして、CG関数がある。これは、cg(n) を「n を長さ n のチェーンで繋げた数」と定義するもので、凄まじい速度で大きくなる関数であることは明らかだよね。
 また、2011年にはピーター・ハーフォードにより、クヌースの矢印表記で 自体に指数を書いていたのと同じように、コンウェイのチェーン表記の にも数字を付ける方法が編み出された。a→_bc を「a を長さ c の →_{b-1} で繋げた数」と定義するんだ。もうどれだけ大きいのか感じることさえ難しいから例は示さないけれど、こうやって現在もより大きな巨大数を求めて、様々な定義が考えられているんだよ。

ここまで聞くと、指数表記可能な数なんて、あまりにも小さいね。
アボガドロ定数だとか、化学や測量、整数論などにおける需要から定義された数もあるけれど、今や実用性とはかけ離れて、ロマンのために巨大数を作り出し続けているんだね。

巨大数を見つめてみた感想

 僕は数学教育が専門なんだけど、新しい記号を導入したり、形式的に操作することについて、苦手意識を持つ子どもたちって多いんだ。平方根の計算、絶対値の記号、数列の \Sigma の計算など…。初学の際には感覚が捉えられないと混乱して悩ましくなるよね。
 最初にも言ったけれど、巨大数を探求することは、定義をその通りに操作するという能力をかなり要する。クヌースの矢印表記やコンウェイのチェーン表記では、どれほど大きいか見通しも立たず、予想を大きく上回る巨大な数字に出会うのが常だったよね。でも、根底に流れる目標は、100億万ダメージのパンチを打っていた頃と同じ「デカい数」を作りたいというとても単純なものだ。怖がらず好きに関数を決めていいんだって、能動的に数学を探求できる価値観を築きやすいと思うから、数学が好きな子どもたちには、ぜひ考えてみて欲しい題材だと感じるんだよね。少なくとも僕自身は、小学生の頃に、無量大数までの単位を暗記して、それだけでは飽き足らず、今回紹介したような内容を嬉々として調べていたんだ。果てしない大きさの数を考えるだけで、えも言われない幸せに包まれたな。
 数学のよさは確かに、生活のなかで見つけられることや、発展させて社会を支えられることなどにもあるよね。でも、素数や完全数だとか、数学の世界にしかない面白さを受け取れるのも素晴らしい魅力だよ。数の世界に自分丸ごと入って、整数と友だちになったり、関数や図形を愛でたりするのは、人生そのものを彩る芸術のようなよさがあるんだ。そう信じているから、これまでにもこんな記事を書いてきた。

 それに、まだ利用方法がわからない数学的な探究をしたことで、未来で役に立ったという事例もよくある。指数部分に実数を入れられるように拡張して指数関数が生まれ、ネイピア数の発見に繋がったと言えるし、階乗の一般化もガンマ関数としてガウス積分に使われる。クヌースの矢印表記だって、演算の性質的にはかなり妥当な定義をしているから、一般化したら何か新しい数学のジャンルが拓かれるかもしれないよね。そんなことを想像すると、心躍る気分がしないかな。今回は紹介しなかった群の性質を用いた巨大数の定義なども、とても面白いから、気になった人はどんどん調べてみてね。

ワクワクする気持ちを探究に向けるのが一番だね。

 ただ大きい数を考えるだけでも、多角的な観察を行える数学という舞台は、いつも人類の好奇心に支えられてきた。幼児の言う「100億万」なんて単位は存在しないけれど、それはこれからも、前へ前へと人類を動かし続ける無限の力を秘めている。


最後までご覧いただき、ありがとうございました!

感想などはTwitterで受け付けております。#クリブロ