e^{i\pi}+1=0
当ブログは、自閉スペクトラム症の当事者である僕が、いつも見ている世界をできるだけ詳細に言葉にすることで、皆さんに他者の価値観を鑑賞していただく試みです。
e^{i\pi}+1=0
これは、今回の主役となるオイラーの等式だよ。
ガウスは「この式を見せられた学生がすぐにその意味を理解できなければ、その学生は第一級の数学者には決してなれない」と言い、キースデブリンは「愛の本質を捉えるシェークスピアのソネットのように、あるいは深い内面から人間の美しさを引き出す絵画のように、オイラーの等式は存在の遥かな深淵にまで到達している」と話したらしい。
数学者もそんなロマンチックになるくらい凄まじいんだね!
この記事の目標は、数学において最も美しい数式とも呼ばれるオイラーの等式について、中高生の子どもたちも感動できるよう、美しさにピントが合う数学の眼鏡を作ることだよ。
オイラーの等式を味わう
この式の何が美しいか…ずばりそれは、数学のさまざまな分野において、独立に定義された重要な定数が、たった一本のシンプルな式で結ばれていることにある。
| \pi | 円 周 率 | 3.1415926… | 幾何学で重要な、直径と円周の長さ比 |
| i | 虚 数 単 位 | x^2=-1 の解 | 代数学で重要な、複素数のための定数 |
| e | ネイピア数 | 2.7182818… | 解析学で重要な、自然対数の底 |
というように、それぞれの定数について理解すると、この式で数学の世界がひとつなぎになっていることが感じられるんじゃないかな。少し無理やりだけど、1は乗法単位元(任意の数に作用させてもそれを変えないもの)だし、0も加法単位元だと考えれば非常に重要な定数だよね。
まるで、マイケルジャクソンに、ライオネルリッチーに、ボブディラン…著名なアーティストが結集した『We Are the World』みたいな興奮があるね。
そこで、これらの定数一つ一つの意味を再確認して、美しさを味わっていこう。
π(円周率)の味わい
とても基本的な問いだけど「円周率とは何か」ちゃんと答えられるかな?
3.14でしょ。円の問題とかでよく使うよ。
こんな風にしか答えられなかった人は、しっかりと定義を述べられるようにしておこう。よく使うものであったとしても、丁寧に定義を捉え直していくと、だんだん数学の世界が鮮明に見えるようになるものだよ。
円周率は「直径を何倍したら円周の長さになるかという値」だ。もちろん、円はすべて相似だから、この値は定数になる。この定数を \pi と置いているんだね。
円の性質は利用の幅が大きく、幾何学においてとても重要だよ。例えば、弧度法による角度の表現。始線と動径の角が切り取る単位円の長さを角度の大きさとする方法であり、三角関数の引数には、基本的にこれが使われる。
ちなみに、一周の360度は、2\pi となるけれど、これには少し気持ちが悪いと感じた人もいると思う。円の定義が「ある点(中心)から距離の等しい点の集合」であることを踏まえると、直径ではなく半径を円周率の定義にするべきではないかと考えられるよね。実際にそう考えた数学者も居て、この「半径を何倍すれば円周の長さになるかという値」は \tau で置かれることがあるよ。これを導入すると、\tau=2\pi だから、一周は単に \tau となる。半径を r とすると、小中学校で習ったよく知る公式たちも書き換わる。
| \pi(3.14…) | \tau(6.28…) | |
|---|---|---|
| 円周の長さ | 2\pi r | \tau r |
| 円の面積 | \pi r^2 | \dfrac12 \tau r^2 |
| 球の体積 | \dfrac43 \pi r^3 | \dfrac23 \tau r^3 |
面積や体積の意味に積分が絡んでいることを考えると、係数に関しても \tau の方が本質を捉えているように見えるね!
オイラーの等式についても、0と1が加法や乗法の単位元だとかいうのは、少し後付けのようにも感じられるから、普通に移項すれば e^{i\pi}=-1 となってしまうよね。ここで、両辺を二乗してみると e^{2i\pi}=1 とできるから、\tau を使えば、e^{i\tau}=1 と表せる。さすがにマイナスがない方が単純で美しいよね。
僕としては、こうした理由もあって、円周率は \tau の方が適切であると感じる。でも長年の慣習によって、これからも変わることはないんだろうね。(デファクトスタンダードって大嫌い…)
もしかしたら、オイラーの等式はもっと美しい式だったかもしれない…と思うと悔しいけれど、今のままでも十分に華麗な式だから、他の定数についても観察を続けよう。
i(虚数単位)の味わい
方程式の解を考えるとき、二乗して負になる数がカルダノによって初めて認められ、その後、代数学においてとても重要な概念になったんだ。
虚数単位 i=\sqrt{-1} は、その後、オイラー自身によって導入された。実係数の方程式には、実数解があると限らなかったけれど、たった一つのこの定数を導入するだけで「複素数係数の n 次一変数多項式の解は重解を含めて n 個の複素数解を持つ」という代数学の基本定理が導かれたんだ。
虚数単位 i って、imaginaryの頭文字なんでしょ?
実際には存在しない数なんて、空論に過ぎない概念なんじゃないの?
そもそも、数そのものは自然界にそのまま存在することはないよね。
木の本数を数えるなら自然数の体系で考えればよいし、損失まで表したいなら整数の体系で、比を考えたいなら有理数の体系でというように、僕たちは考えたい対象に合わせて、理想的で扱いやすい数の体系を使っているだけなんだ。「犬を2.6匹飼っている」とか「リボンを-10m に切る」とか、不適切な体系で考えてしまうと「そんな数は存在しない」って言いたくなってしまう。でも実際には、どんな数の体系も人類が必要に応じて作ったもの。「数」は人類が築き上げた叡智であって、思考と整理のための「道具」でしかないんだよ。
複素数はさっき言ったように、方程式の解を考えるために有用だし、他にも様々な応用が考えられる。分かりやすくて、僕が好きな例を一つ挙げよう。
フィボナッチ数列を発展させたトリボナッチ数列という数列がある。
0,0,1,1,2,4,7,15,26,\cdotsと続く、0,0,1 から始めて、前3つの項を次々に足して得られていく数列だよ。第 n 項目を T_n として、一般項を求めると次のようになる。
複雑な式だけど、よく見ると虚数単位 i を使って表されているね。
もちろん三つずつ足し算をしているだけだから、各項はすべて自然数なのに、一般項を表現するには複素数の範囲で考える必要があるんだね!不思議だな。
とても有用な虚数を「imaginary」な空論だと気味悪がるなんて、非常にもったいない。虚数は人間の知性が作り出した「imaginative」な数だと考えておいて欲しいな。
e(ネイピア数)の味わい
金利が年間100%であるとき、1年間で元本は\left(1+\dfrac{1}{1}\right)^1倍になる。一方、半年ごとに50%ずつの金利なら、\left(1+\dfrac{1}{2}\right)^2倍だね。同様に、3ヶ月ごとに25%なら、\left(1+\dfrac{1}{4}\right)^4倍というように、どんどん短い期間に小さい割合で金利を設けると、返ってくるお金は多くなるんだ。それなら、これを限りなく増やしたらどうなるんだろうって疑問が湧くよね。
実はこれはある値に収束し、そこで定義されるのがネイピア数 e だ。
e=\displaystyle\lim_{n→∞}\left(1+\dfrac{1}{n}\right)^n
この式は、\displaystyle\lim_{n→∞}\dfrac{1}{n}=0 かつ、\displaystyle\lim_{n→0}\dfrac{1}{n} が無限大に発散することから、e=\displaystyle\lim_{n→0}\left(1+n\right)^\frac{1}{n} とも言えるよね。
後のために、両辺に底を e とする対数(自然対数 \ln)をとって、変形しておくね。
\ln e=\ln \displaystyle\lim_{n→0}\left(1+n\right)^\frac{1}{n}=\lim_{n→0}\frac1n\ln \left(1+n\right)
もちろん \ln e=1だから \displaystyle\lim_{n→0}\frac1n\ln \left(1+n\right)=1
また、1+n=e^t, n=e^t-1 と置くと、n→0 のとき t→0 だから
\displaystyle\lim_{n→0}\frac1n\ln \left(1+n\right)=\lim_{t→0}\frac1{e^t-1}\ln e^t=\lim_{t→0}\frac t{e^t-1}=1
逆数をとると、\displaystyle\lim_{t→0}\frac{e^t-1}t=1 が得られるよ。
ネイピア数の定義に極限が登場するところから、解析学における重要な定数である匂いがするけれど、定義ばかり見ていてもよさは実感しにくい。そこで、ネイピア数の何がすごいのかについて語ろう。それは一度、微積分を考えてしまえば、鮮やかに見えてくるよ。
底が1より大きい指数関数は指数が大きくなればなるほど、値も大きくなるし、その点における接線の傾きも大きくなるよね。そうすると、その比率が全く同じで、微分しても変わらないような指数関数は存在しないのだろうかという疑問が湧いてくるんじゃないかな。
実際に指数関数 f(x)=a^x の微分を考えてみよう。
\begin{align*} \displaystyle\frac{d}{dx}a^x &=\lim_{h→0}\frac{a^{x+h}-a^x}{h}\\ &=\lim_{h→0}\frac{a^x(a^{h}-1)}{h}\\ &=a^x\lim_{h→0}\frac{a^h-1}h \end{align*}となるから、\displaystyle\frac{d}{dx}a^x=a^x であるには、\displaystyle\lim_{h→0}\frac{a^h-1}h=1 でないといけない。
さっきの式変形から、a=e であるときに成立するね!
よって、\displaystyle\frac{d}{dx}e^x=e^x が言える。つまり、ネイピア数を底とする指数関数は微分しても変わらないということ。これは非常に重要な性質だよ。
このように、ネイピア数は、極限を用いて定義され、解析学において重要な定数だけど、高校数学の数学IIIでようやく登場する数だから、あまり馴染みがないという人も多いかもしれない。でも美しい性質が多くあるから、ぜひ親しんで欲しいな。
オイラーの等式を導こう
さて、3つのピースが揃ったことだし、オイラーの等式へと繋げていくよ。
まず、単なる図形問題から円周率を連れ出すには「三角関数」を使おう。三角関数の微分は、加法定理を用いて定義通りに計算するだけで、簡単に導けるよ。
余弦についても同様に計算すると、\displaystyle\frac{d}{dx}\cos x=-\sin x となる。
つまり、三角関数は \sin x→\cos x→-\sin x→-\cos x→\sin x→\cdots
って、微分が4回でループしているんだね。
これは微分しても変わらない、ネイピア数の指数関数と相性が良い気がするね。
ここで、関数の新しい見方としてマクローリン展開を取り入れよう。
マクローリン展開とは、多項式で表されない無限回微分できる関数を微分の性質を使って多項式の形で表そうっていう考え方だよ。
f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots とすると、
x に 0 を代入した場合、f(0)=a_0 になる。
次に1階微分した、f'(x)=a_1+2a_2x+3a_3x^2+\cdots からも、f'(0)=a_1
2階微分、
f''(x)=2a_2+(3×2)a_3x+(4×3)a_4x^2+\cdots でも、f''(0)=2a_2
と、次々に求まり、一般化すると f^{(n)}(0)=n!a_n
逆に a_n については、 a_n=f^{(n)}(0)\dfrac{1}{n!} といえるね。
f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots について
\begin{align*} f(x)&=f(0)+f'(0)x+f''(0)\frac{1}{2!}x^2+f'''(0)\frac{1}{3!}x^3+\cdots \\ &=\lim_{n→∞}\sum^n_{k=0}f^{(k)}(0)\frac{1}{k!}x^k \end{align*}ここで、f(x)=e^x とすると、任意の n で、f^{(n)}(0)=e^0=1 が成り立つため、
\begin{align*} \displaystyle e^x &=1+x+\frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{3!}x^3+\cdots \\ &=\lim_{n→∞}\sum^n_{k=0}\frac{1}{k!}x^k \end{align*}次に三角関数についてもマクローリン展開してみよう。こっちも微分が4回でループすることと、\sin0=0 , \cos0=1 であることに気をつければ単純にできるよ。
\begin{align*} \displaystyle\sin x &=x-\frac{1}{3!}x^3+\frac{1}{5!}x^5+\cdots \\ &=\lim_{n→∞}\scriptsize\left\{\sum^n_{k=0}\frac{1}{(4k+1)!}x^{4k+1}-\sum^n_{k=0}\frac{1}{(4k+3)!}x^{4k+3}\right\}\\ \\ \displaystyle\cos x &=1-\frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{4!}x^4+\cdots \\ &=\lim_{n→∞}\scriptsize\left\{\sum^n_{k=0}\frac{1}{(4k)!}x^{4k}-\sum^n_{k=0}\frac{1}{(4k+2)!}x^{4k+2}\right\} \end{align*}三角関数では、次数が奇数の項と偶数の項に分かれているけれど、 e^x とかなり似ているよね。ただ、4を法として2と3に合同なときにマイナスがついているから、単純に足し合わせるだけでは、等しくならない。
4つでループして、符号を調整したいなら、虚数単位 i が使える!?
i^1=i\,,\,i^2=-1\,,\,i^3=-i\,,\,i^4=1 だから、4回かけると1になり、2回目と3回目にだけマイナスが付いていることまで一致しているね!
ちなみに、虚数を指数に乗せて良いのか、そのときのマクローリン展開も同じようにできるのか…などについては、議論の余地があるけれど、今回はそれは認めることにするよ。
見事に実部と虚部に余弦と正弦が分かれたね。
最後に x を \theta に置き換えると次の公式が導ける。
e^{i\theta}=\cos \theta+i\sin \theta
この \theta に \pi を代入したのが、オイラーの等式なんだね。
e^{i\pi}+1=0
見た目ももちろん美しかったけど、導出過程もさまざまな分野が集結していくようでワクワクしたね!最も美しい数式と言われるのも納得。
ドモアブルの定理と併せて使ったり、双曲線関数を考えたり、オイラーの等式の利用についての話題も尽きないよ。気になった人は、ぜひ調べてみてね。
簡単なので言うと、個人的には e^{i(\alpha\pm\beta)}=e^{i\alpha}e^{\pm i\beta} を考えることで、逆に三角関数の加法定理を導出するっていうのが好きだな。三角関数の微分の証明に加法定理を用いるから、循環的で証明にはならないんだけど、符号が覚えやすいし、正弦も余弦も同時に導出されてしまうっていう鮮やかさは、目を見張るものがあるよ。練習問題としてやってみてね。
数学ではよく「美しさ」という基準でよさを語られることがある。数学が好きな人にとっては当たり前な感覚だと思うけれど、初学者にとっては理解し難いものである気もするんだよね。やっぱり、数学は芸術とよく似ているな。だから今回は、美術館を案内するように、数学の鑑賞の仕方を提示してみた。数学の眼鏡をかけて世界や数式を見つめると、見向きもしなかったことまで面白く思えてくるんだよ。この世のすべてが数学の舞台だ。







