漢字「辛」の解体
当ブログは、自閉スペクトラム症の当事者である僕が、いつも見ている世界をできるだけ詳細に言葉にすることで、皆さんに他者の価値観を鑑賞していただく試みです。
この記事は、Amebaブログのリメイクです。
僕は、激辛料理が意外と好き。
唐辛子系の辛さが好きで、蒙古タンメンの北極とかもペロリと食べられちゃう。
そんなことを話そうと思って「辛いのが好きなんだ〜」と書いたら「つらいのが好き」って読み間違えられたことがあるんだ。「怪我や病気でもできるだけ痛み止めを飲まずに、実際の痛みをしっかりと味わいたいのだ。」なんて意味不明なこともよく言っている僕だから、そう読まれてしまうのも頷けるんだけどね。
こういうとき、僕が最初に抱くのは「二通りの読みがある漢字に気をつけよう」という意識でなく、「言語の設計の方が悪くね?」という神視点の批判意識なんだ。
- 水面(みなも・すいめん)
- 明日(あす・あした・みょうにち)
- 描く(かく・えがく)
- 誘う(さそう・いざなう)
みたいな、読みは違っていても、意味がそこまで変わらないものはまだしも
- 辛い(からい・つらい)
- 行った(いった・おこなった)
- 色紙(しきし・いろがみ)
- 人気(にんき・ひとけ)
のように、意味まで違う読みがある漢字には、どういうつもりだ!と苦言を呈したくもなる。
大抵は文脈で判断できるけど、
「人気のない店」みたいに両方で読めることもあるよね。
最初は漢字の表記の問題だろうと思っていた。でも「辛い(からい)」という言葉に関しては、考察をしていると「そもそも言語において『辛さ』に対する扱い方が難しいのでは?」とも感じてきたから、今日はそんなことを話そうかな。
「辛い」って味じゃない
それなりに有名な話だと思うんだけど、「辛味」って味ではないんだよね。
味覚で感じるのは「甘味・塩味・酸味・苦味・旨味」の5つであって、「辛味」は含まれていないんだ。唐辛子とかを食べたときのあの感覚は触覚によるもので、痛みや熱さとして知覚している。
生きるためのエネルギーを感じるために「甘味」を捉え、生きるためのミネラルを感じるために「塩味」を捉え、体をつくるアミノ酸を感じるために「旨味」を捉える。逆に、腐敗や毒を見極めるために「酸味」や「苦味」を捉える。というように、味って現代では食生活における娯楽のためだけに存在していると感じてしまうけれど、もともと生存のために必要な感覚でもあるんだよね。
「辛味」は、そういう意味では、あまり役に立っていないようにも思える。痛覚なんて、どう考えても危険から逃れるための感覚なんだから、それを刺激として喜んでいるってなかなか狂気じみているよね。
じゃあ、激辛料理が好きなクリハロくんは…
そういうのが好きな…
ちょっと待って!でも「辛味」には、発汗作用や唾液の分泌を増やして食欲を増進するとか、抗菌できるとか、いろいろな利点もあるからね!(まぁ、激辛までいくと、そういう意味だけではないかもしれないけれど…)
何にせよ、「辛味」は「刺激」であって、「味」ではない。
だから、痛みに近い感覚である「ツラさ」で「辛味」を表現するのは、ある意味正しいし、英語でも「Hot(熱い)」って表現されていて、かなり科学的な立場の言葉である気がするね。
でもさ…「カラさ」って味っぽくね?
言葉って科学で正確に描写したらよいってものでもない。特に科学的根拠のない感覚を伝えるための語彙なんていっぱいあるのに、なんで辛味専用の言葉がないんだろう?と疑問が湧いてくる。さらに悪いことに「カラい」という言葉自体にも多義性があるんだよ。
例えば「塩辛いこと」や「アルコール度数が高いこと」を示す場合もあるよね。しょっぱい方は、塩が入りすぎた感覚が「辛味」と似ていて言うのかもしれないけれど、酒の方はかなり曲解しているように思う。酒の辛口と甘口とか、辛党と甘党みたいなことを言うときの「辛い」って表現ね。
「口に入ってくる刺激」という共通点こそあれど「さすがに『辛い』に仕事をさせすぎですよ!」って誰か言ってあげてよ。(辛いも働きすぎで辛いよ…)
私にとっては、このお酒は辛い
って書かれたら「アルコール度数が高すぎる」「飲むと具合が悪くなって苦しい」「(唐辛子などが入っていて)辛味が強い」「ソルティドッグなどの塩味が強すぎる」など、どんな意味にでも取れてしまう…。
そもそも「辛味」を「ツラい」のような、感情語で表現することは、僕みたいな激辛好きの人間からすると、感覚を差別されている気もするんだ。僕に言わせれば「辛味」は食のレクリエーション。無くても困らないけど、あったら楽しい。とはいえ、英語みたいに「熱い」って表現をしたら、辛い冷麺みたいなものが意味不明になってくるから、これも好ましいと思えない。
やっぱり…言語の設計が悪い!
味っぽいのに味ではない「辛味」を言葉で上手く切り取れなくて、「辛」の漢字に頼りきりになった結果、体系がぐちゃぐちゃになってしまったって印象を受ける。わかりやすいコミュニケーションのためにも、この問題は設計の方から考え直す必要があるんじゃないかと思ったよ。
いつものことだけど、クリハロくんは、どうでも良いことを真剣に考えるのが好きだよね…。
「辛い」ってどう書こう
やはり漢字表記が悪さをしているのだから、それぞれの意味に別の漢字を当てるのが、問題の解決への近道だと思う。
例えば、「おぼえる」を
- 覚える:知覚する(寒気を覚える)
- 憶える:記憶する(公式を憶える)
のように書き分けるみたいな感じで、「ツラい」とさまざまな意味の「カラい」に対して、それぞれ別の表記を当てようって試み。もちろん公文書とかでは使えないんだけど、少なくとも小説を書くときなんかには活躍しそうだ。(まぁ正直、僕はそれさえ解決したら良いし…)
で、調べてみると、このような表記が見つかった。
- 辣い:からい。辛子のような辛さ。
- 鹹い:からい。塩辛い。
お、なんだ!辛味専用の「カラい」もあるのか!って嬉しくなるね。
「鹹い」の方は漢検一級相当のそれなりに難しい漢字だけども、「辣い」は「辣油(ラー油)」でよく見るしね。ぱっと見で意味もわかりやすい。今後はこれを使うしかないね!むしろ、今まで「辛い(からい)」を優先していた理由がわからないよ。
中国語では、唐辛子っぽい熱い辛さを「辣」、山椒っぽい痺れる辛さを「麻」って表すんだよね。そう思うと、日本語でも痺れる辛さの方は「麻い」って書いてみたくなる。表記が増えるだけで内容が細かく変化してくるって面白いね。
しかし、「アルコール度数が高いこと」の「カラい」に関しては、「辛」以外の有力な表記が僕の調べた限り見つからなかった。
まぁ、そうなったら…それっぽいのを考えるしかないよな!
酒が「カラい」こと
まず、酒に関してだけど、僕が候補に挙げたいのはこの3つ。
- 乾い:「カン」「かわ(く)」の音が「カラい」と近い。英語の「dry」から。
- 烈い:中国語の「烈酒」(きつい酒の意味)から。
- 酎い:濃い酒の意味。酉が入っていて、酒関連だとわかりやすい。
どうかな?それぞれ良さがあると思わない?
僕のイチオシは「烈い」かな。辛口の日本酒のような、キリリとしたシャープなイメージを強く出せている気がする。
心が「ツラい」こと
あと残された問題は「ツラい」の別表記を探すこと。「ツラい」と読める漢字は「酸い」というのもあるんだけど、もう味の表現から出張してくるな!って思う。よく考えたら、類語の「苦しい」とかも「苦い」から出張しているのか…?
人は心の感覚を「味」で表現したくなるらしい。
「辛」という漢字は、持ち手のある針みたいなものを模して成り立った象形文字であって、「ツラい」と読むときが原来の意味だから、ぴったり感が半端じゃないんだよ。「辛い(からい)」という読みは「辣い・鹹い・烈い」に託して、もう絶対にしないと誓い、「辛い」は必ず「ツラい」とだけ読むと決めてしまいたい…。
でも、そんなことを全日本語ユーザーに知らせることはできないから、やはり追加で「ツラい」専門の漢字を考えるしかないよな。正直どれも「辛」に敵わないのだけど、質より量で候補をたくさん挙げてみよう。
- 愴い :悲愴の愴。つらく悲しいこと。心の辛さにフォーカス。
- 疚い :「ながわずらい」とも読める。長期間の辛さ。
- 劈い :つんざくという意味。痛々しさがある。
- 䶟い :歯軋りするという意味。悔しさに近い辛さ。
- 痛螺い:「つらい」と読みやすい。痛みが巻き付いてくるイメージ。
- 疲拉い:疲れでひしゃげるように押しつぶされるイメージ。
- 㾕い :「辛い」に病垂を付けて意味を明確にしている。
こんなところかな…。
これだけ考えても、あんまり「これだ!」って感じはしないから「辛い」がどれだけすごいのか、実感させられるね。
でも、漢字の持つイメージを考察しながら、新しい読み方を考えるなんて活動をすると、文章を書くときに一文字一文字へのこだわりが生まれてくるように思える。意味も明確になって面白いね。
「辛い」を考察するなかで、味の表現や心理描写に対する感覚が少し鋭くなってきた気もするよ。明治時代の文豪なんかは、どんどん新しい言葉や新しい表記を創作して取り入れていたわけだし、現代の日本語でも柔軟に未知なる表現を追い求めていけたら、文学として面白くなるかもしれないね。
みんなも些細な違いを表現できる漢字表記を思いついたら、どんどん自ら使用してみて欲しいな。僕たちの力でこれからも日本語を盛り上げていこう!
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